「ウェブアニメーション大百科」を読んでウェブアニメについて思ったこと

──キャラクター不足。本書を読んでいてそんな言葉が思い浮かんだ。ウェブアニメがもう一つブレイクしてない(ように見える)のはキャラクターが不足しているのではないだろうか。

ラレコさんの登場によってようやくキャラクター面に目が向くようになったと思う(この辺俺の認識が不足していたらごめんなさい。)。キャラクター面と言っても商業化とか商品展開云々の話ではなく、シーンを盛り上げるには多くの人にアピールできるキャラクターが必須であるからだ。

あと初期の作品で目立つのは2chネタの多さ。Flash黎明期に2chFlash板が与えた影響を考えると仕方がないが、これがFlashが内輪受けっぽく見られてしまった原因だろう。とは言え、2chを知らないと全く楽しめないという訳でもなく、内輪ネタに留まらないセンスを持つクリエイターも少なくない。しかし、その印象を拭えないままずっと来てしまった感は強い。

その昔、GIFアニメと言えばホームページの片隅でチマチマ動くアイテム程度のものだった。その認識を覆したのがのすふぇらとぅ氏の「機動戦士のんちゃん」。GIFアニメがメインコンテンツに、それも凄まじいクオリティで。驚いたものだ。

「1秒の爆発シーンに1ヶ月かけるバカはいないでしょうね。」とは本書にある氏の弁。職人的なものに痺れる古いアニオタには堪らない名台詞だ。氏がほとんどアニメ見てないというのも納得だ。見てたらあんなアニメーションが出来上がるはずが無いから。

本書からはちょっと外れるが、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20060628/105283/
この蛙男商会さんのインタビューを読んでちょっと気になったのは「Flashは普通のアニメと比べてこんなに安くできるんですよ」という論調。

別に殊更それを強調している発言ではないだろうが、このインタビューからはFlash=安く作れる、という印象を持たれてしまいがちだ。そうじゃなくて、蛙男商会さんの作風がFlashと相性良くて、結果として早く作れてコストが安い、というだけの話なのだ。Flashだって時間と手間を掛けて凝った作品を作る事が出来るわけで、そうなるとFlash=安く作れるというイメージが世間に刷り込まれるのはFlashクリエーターにとっては困る事態であろう。

新海誠が出てきたとき、「一人でこれだけの物が作れるんですよ」という紹介のされ方をしばしば目にしたが、結局あれは新海誠が一人で作れるだけの才能を持っていたという話だったのだ。確かに新海誠が出てきた背景にはハード的なハードルが低くなった事が挙げられるが、結局ムーブメントとしては続かなかった。

ばるぼらさん自身、今はウェブアニメの過渡期であるという。本書に収録されている作品も玉石混淆であり、正直言って「ウェブアニメーション」じゃなくて「自主制作アニメ」という括りだったら見向きされない作品も少なくないだろう。

近年、ウェブアニメの世界では蛙男商会さんの「フロッグマンショー」、ラレコさんの「くわがたツマミ」「やわらか戦車」、森野あるじさんの「HANOKA」と、同人・自主制作の枠を飛び出した作品も出てきており、なるほどまさに今はウェブアニメ時代の変わり目であると言えよう。この時期に本書が出版されたのも過渡期をまとめる資料としていいタイミングだ。

ペーパーアニメが「紙」と「鉛筆」と「やる気」さえあれば出来るように、ウェブアニメクリエーターも「PC」と「ネット」と、あとやっぱり「やる気」を持って面白い作品を作り続けて欲しい。

ウェブアニメーション大百科 GIFアニメからFlashまで
発売日:2006-07-27
著者:ばるぼら
出版社:翔泳社
定価:¥ 2,310(税込)
在庫:通常24時間以内に発送
中古:〜

中はほぼフルカラー、そして特筆すべきは表紙。俺はこの表紙のデザインは凄く好きだ。